光の帝国 常野物語(とこのものがたり)
さて、皆さんは本に一目惚れしたことはありますでしょうか? 読み終えて大好きになる本というのは数多くあれど、表紙を眺めただけ、また最初の数文を読んでだけで惹かれてしまうような本には、なかなかお目にかかれないものと思います。 今回紹介する本は、私にとっては数少ないそんな一目惚れをしてしまった本。 その作品の名は「光の帝国 常野物語」。 著者は恩田陸さんです。 ちなみにですが、この作品は「SFが読みたい! 1998年版」では見事2位に輝き、また同じく「SFが読みたい! 2001年版」内の『1990年代SFベスト30ガイド』では7位にランクインしています。 まぁ「それがどうした!」、と言われても何も出てはきませんが・・・(苦笑) さて、そろそろ本の紹介に移りましょうか。 この「光の帝国 常野物語」という物語は不思議な能力を持った常野一族を巡る様々なエピソードを連ねた物語です。 合わせて10からなるこの連作短編集は一つ一つが独立しながらも巧みにリンクしてひとつの物語を紡ぎあげています。 そしてその短編の一つ一つに現れ、また語られる存在、それが常野一族です。 「権力を持たず、群れず、常に在野の存在であれ」という意味を持つ『常野』の言葉を冠した常野一族には、一度目にしたものをずっと『しまって』おけ、いつでも引き出しから取り出すことのできる人や未来を予測できる人、遠くで起きていることを聞くことのできる人など様々な、超常的といってもよい能力をもった人々がいます。 そしてそういった能力に関して起こるいくつものエピソードはみな、人の心を打つものばかりです。 中には、亡くなった人の記憶を『響かせる』ことで親子の邂逅を演出する話、戦時という厳しい中で癒されることに飢えて集まった子供と大人たちに訪れる悲しい運命を描く物語など目にしただけで感動し、また涙する物語もあります。 そして全編に共通するもの、それは全て様々なものを内包しながらも暖かいストーリィである、ということ。 そして常野一族とそれにかかわる人々は揃って「穏やかで知的で、権力への志向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らしている」こと。 読んで「ほっとする」ものも「はっとする」ものもありますがこれだけは変わらないです。 あと、ちょっとネタバレになるかもしれませんが、作品中の表題作『光の帝国』に『お祈り』というものがあります。 「――僕たちは、光の子供だ。」で始まる言葉は、切なくも美しい文句であり、そしてこの「光の帝国 常野物語」という1冊を象徴する1文です。 一度読んだ後にもう一度この文句を目にすると、多分それについて納得していただけるかと。 「光の帝国 常野物語」は集英社よりハードカバー及び文庫で発売されています。 また、シリーズの続編「蒲公英草子 常野物語2」が集英社のPR誌『青春と読書』において2000年1月号〜2001年2月号まで連載されていたそうです。 こちらは近日刊行予定とのことですが、まだ詳しいことは分からない模様。 どちらにしろ早く刊行して欲しいものです。 現時点ではハードカバーでも買う気満々ですし(^^; ついでに回想・・・ この本を友人に貸して、返ってきた時に友人が熱心にこう言いました。 「あとがきにもあったけど、続きはまだ出ていないのか?」 そして、それに対しての私の返しは、 「ああ、やっぱりお前もそう思ったか」 これだけは最初に読め、と渡したものだったから、友人が期待通りの反応を返したことをやけに嬉しく思ったことを記憶していますね。 また、この作品はNHKにてドラマDモードにて放送されます。 放送日時は12月4日から25日までの火曜夜11時です。 HPを覗いてみると原作とは、登場人物はともかく内容が随分と違うみたいですが、期待度は今のところ高いです。 とりあえず4日は見ることでしょう 最後に久美沙織さんの解説文中の言葉を引用しつつ、締めさせて貰いたいと思います。 「ねぇ、現実の現代の世の中に生存している『まっとうな』人間どもよりも、ここに描かれた常野のひとびとのほうがよほど魅力的だと、あなたも思いませんか?」 どうです、この文章を見ている「まっとうでない」方々(多分ほぼ全員でしょうねぇ・笑) これでも読んでみたくなりませんか?(^^; (2001.12.02)
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