永遠の森 博物館惑星
「美」とはどのようなものでしょうか? そしてそれを美しいと感じる人の心はどこにあるのでしょう? 極めて答え難い疑問です。 また、それに対する答え方も人によってまちまちであると思います。 専門的に捉え分析する人、感覚が第一と答える人、言葉を尽くして自分の感じる美について説明する人、・・・数え上げたらそれこそキリがないでしょうね。 その疑問に対する普遍的な答なんてものは、ないようなものでしょうから。 しかし本当に答はないのでしょうか?そう問い掛けてみたくなる、そんな作品が世の中には存在しています。 今回紹介する作品は正にそのような作品です。 その作品の名は「永遠の森 博物館惑星」。 作者は第4回の本紹介で紹介した「メルサスの少年」の作者、菅浩江さんです。 ちなみにこの作品、「SFが読みたい! 2001年版」で2位に倍以上の点差をつけて、見事1位に輝き、更には第54回日本推理作家協会賞を長篇および連作短篇集部門で受賞しています。 また、決まったわけではないですが、今年8月に行われる日本SF大会で2001年の星雲賞日本長編部門を受賞するのもこの作品でしょう。 この作品を読んだ人なら、誰もが「これしかない!」と言う筈でしょうから・・・ それでは作品の紹介に移りますね。 物語の舞台ですが、人間が宇宙に進出し、惑星改造などが実用されるようになった時代の博物館が舞台となります。 と言っても、勿論普通の博物館などではなく、地球の衛星軌道上にぽっかりと浮かんでいる博物館なのですが。 小惑星帯より拉致されてきた、オーストラリア大陸とほぼ同面積の岩石を加工して出来上がった、人間が考えうる限りで最高の環境が整えられた巨大博物館苑<アフロディーテ>、それが舞台となる博物館です。 そして物語の主人公と言ってよい人物は田代孝弘、この博物館に所属する有能なる学芸員の一人です。 ここを舞台にして彼の周りに寄せられた"美"にまつわる謎。 その全てで9つの物語がまるで美麗な音楽を奏でるかのように、次々と私たちを魅了していくのです。 また、<アフロディーテ>の学芸員には一つの大きな特徴があります。 これこそがこの物語を特徴づける最大のウリと言ってもよい位で。 それは彼ら学芸員の多くが膨大かつファジーなデータベースと"直接接続"しているということです。 直接接続者はそのバージョンの違いこそあれ、手術によってデータベースと直結されています。 そして、頭の中でイメージを浮かべるだけで必要なデータを入手し、またその入手したデータを絞り込む、といったことができるのです。 状態的には脳にデータベースをくっつけているような感じで、例えば「こんな感じのものを前に見たなぁ」とその人が思い浮かべるだけで、優秀なるデータベースはその思考の方向性を正確に捉え、広大なデータの海の中から目的のものを選び出すのです。 <アフロディーテ>は3つの専門部署に分かれています。 音楽や舞台と文芸全般を担当する<ミューズ>、絵画工芸の<アテナ>、動植物担当の<デメテル>の3つの部署にはそれぞれ<輝き(アグライア)>、<喜び(エウプロシュネー)>、<開花(タレイア)>というデータベースが用意されています。 そして3つの部署の上には芸術という広大な物言いでしか括れないものを、分野を超越した高い視点から分析検討することを役割としている、総合管轄部署<アポロン>が存在します。 そして、孝弘はこの<アポロン>の優秀なる学芸員の一人です。 <アポロン>に所属する孝弘は博物館の中でもかなり上位の権限をもつ、エリートといって差し支えのない人物です。 しかし、そんな彼に実際に回されてくる仕事は3部署間の調停といった心労の溜まる仕事や、3部署では手におえないような厄介な仕事ばかりであって・・・ 「永遠の森 博物館惑星」、菅さんが5年以上の歳月をかけて完結させた傑作SF連作短編集です! 雑誌(SFマガジン)上では1998年の7月号で完結したのですが、それから単行本になるまでさらに2年。 聞いた話によると菅さんが女児出産(これも1998年の7月)と育児のため執筆活動に専念できなかったためとか、編集上の都合とかが理由だそうです(ちなみにe-novelsにある菅さんの推理作家協会賞受賞記念特集では編集をされた方の 謝罪及び祝福コメントがあります) 雑誌掲載時からこの作品を(何回か飛ばしてたけど)読んでいた自分としては、本当に発売されるまでが待ち遠しい作品でした。 発売を知った時には小躍りして、何も知らない書痴友人に「これこれが出るんだ〜。ホントに面白いんだぞ〜♪」とか言ってたりもしてました(遠い目) ちなみにそいつにこれを貸したら、「もう一遍読むから」と言ってしばらくの間返ってこなかったりしましたねぇ(苦笑) 閑話休題 この作品の魅力について小なりとも語らせていただきますね。 ホントはこんなちゃちな駄文を見る暇があるのなら、その時間でこの本を読め!、って思うくらいなのですが(苦笑) 9つの短編は1つ1つが「美」というものに正面から向かい合ったお話です。 全てのエピソードはそれぞれ美しいストーリーを描きつつ、最後のエピソード「ラヴ・ソング」へと繋がっていきます。 そしてラストの感動的な終わり方・・・ こればかりは実際に読んでみていただけないと分からないでしょうね(^^; この作品「永遠の森 博物館惑星」は早川書房よりハードカバーにて発売されています。 税抜きで1900円、税込みだと約2000円。 高いと感じるかこの値段分の価値があると考えるかは人それぞれでしょうから、私は何も言いません。 ただ古本で見つけた場合には即座に購入した方がよろしいかと思われます(結局言ってるし・笑) 何しろ見つけたという幸運な人を私は一人しか知らないので。 「分析はいらない。ただ、僕は感じている。 究極の美学、天界の音楽、至上の幸せが、今ここにあることを。」 この本を読了した方は、文字を超えて、感動が聴こえてくるこの作品を目の前にして「綺麗だ」という言葉を形容詞ではなく感動詞として使うことになるでしょうね。 P.S 余談ですが、菅さんはガイナックスの関係者でもあります。 旦那さんが会社の創設メンバーの一人でかつ取締役統括本部長である武田康廣(怪傑のーてんき)さんですし、菅さんもガイナックス創設のきっかけとなった1981年の第20回日本SF大会DAICON3では関係者の一人だったそうです。 他にも電脳学園シリーズや「サイレントメビウス」といったガイナックス制作のゲームの音楽を担当されたりもしています。 んと・・・調子に乗ってさらに菅さんのプロフィールも載せませうか(をい) デビューは高校在住時の1981年、<SF宝石>(今はもうないです)誌に「ブルー・フライト」(「雨の檻」ハヤカワ文庫に所収)で。 その後<SF宝石>の廃刊などで長いブランクを経て、89年に「ゆらぎの森のシェラ」(朝日ソノラマ文庫・但し絶版)で再デビュー。 そして1992年に「メルサスの少年」で星雲賞長編部門、続く1993年には「そばかすのフィギュア」(「雨の檻」所収)で星雲賞短編部門と2年連続で星雲賞を受賞。 以後も多作とはいえないまでも作品を発表し続け、今に至ります。 また、菅さんは多彩な才能を所有している人で、日舞では若柳喜蔵(わかやぎきくら)の名をもつ日本舞踊正派若柳流名取りであり、音楽では電子オルガン講師の肩書きを持っていて前述のゲーム音楽やKBS京都のニュース番組の音楽(90年春から秋)を手がけていたりしました。
(2001.07.20)
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