デルフィニア戦記
第7回目は面白さの割には知名度がいまいち、という作品を紹介することにします。 そういうことで今回紹介する作品は「デルフィニア戦記」です。 作者の名前は茅田砂胡(かやたすなこ)です(知っていますか?)。 この作品はもともと大陸書房で「王女グリンダ」という名前で発表されていたのですが、大陸書房の倒産のために中断を余儀なくされていた作品でした。 その作品が中央公論社(現在は中央公論新社)から内容も新たに発表されたのが「デルフィニア戦記」です。 それでは作品の紹介に移らせていただきます。 この物語は国を追われた王様が王位奪回を目指す、という戦記物としてはかなりオーソドックスな始まり方をします。 そして、国を追い出され流浪の日々を送る王様ウォルと異世界からこちらの世界(アベルドルン大陸)へと迷い込んでしまった少女リィ(元の世界では少年ですが)とが出会うところから物語は始まります。 人並み外れた(非常識といっても可)度量を持ったウォルが国王に戻るための戦いに、人間の規格から外れた力を持つ異邦人であるリィは協力します。 ちなみにリィの人間離れした能力を一部挙げておきましょう。 馬よりも速く走ることができる、 数十メートルもある城壁を飛び越えることができる、 自分より2倍以上の重さの人間が城壁から落ちてきてもそれを受け止めることができる・・・です。 そしてこの二人は・・・(以下ネタバレのため省略)のです。 この「デルフィニア戦記」(以後「デル戦」と略)の最大の魅力は人物がとても魅力的に描かれていることでしょう。 少々地の文に拙さが見えることがありますが(プロローグにはその点が顕著に出ている)、それが些細なことだと思ってしまうくらいに登場人物の魅力的な行動と言動は際立っています。 特に主人公である二人はなんと表現すればよいのでしょうか・・・、とにかく常識外れと言うか規格外なのです。 統率力に優れ、無私公正で戦士としてもきわめて優秀であるウォルは、人間の理解を超えた存在であるリィを見ても拒絶することなく受け入れ、また国王の地位を義務以上のものと感じずにひたすらわが道をマイペースに行く人物です。 華奢で可憐な外見とは裏腹に無双の剣の腕と戦士の魂を持つリィは、人間という立場からは乖離したものでありながらもとても人間的な上、素晴らしいくらいに紳士です。 戦士として一流であり、自分を周囲の者のためには命を惜しまずに戦う二人は、「デル戦」という物語を象徴する二人でもあります。 そしてこの非常識な二人の周囲を固める登場人物がこれまたとても個性的な人物ばかりなのです。 ここで一人一人の特徴を挙げますと、読むときの楽しみが半減してしまいますのであえて言いませんが、文中の表現を借りて言いますと、ここの人たちは「宝石箱か、宝の山」のように(魂が)きれいな人たちばかり、です。 「デル戦」の魅力はそれだけではありません。 この物語はデルフィニアを中心にアベルドルン大陸のある時代の歴史(というか伝説)を描いた歴史絵巻でもあります。 そしてこの作品が読後に一種の爽快感を味わえる作品である、ということは疑うこともなき事実だと思います。 またこの小説はこだわりを持たない、ということにこだわった作品であると思います。 概ねの場合において、人は自分には理解できないものであることを理由として、異物を排除する生き物である、と言えます。 しかし「デル戦」の登場人物たちは一筋縄ではいかない人物ばかりであるため、そう簡単にはそのような行動に及びません。 必ず理解、もしくは不理解のための具体的な理由を挙げた後に彼らは動きます(理由が単刀直入だったりすることもよくありますが)。 ですからリィはデルフィニアの人物たちと共に生きることができたのですし、読書中に読者は爽快感を得ることができるのだと思います。 「デルフィニア戦記」は中央公論新社のC☆NOVELSファンタジアから全18巻が発売されています。 ほかにも沖麻実也の全イラストおよび追加イラストが載せられており、さらにはとても笑える「デル戦」の中篇小説も入っている「デルフィニア戦記画集」が発売されています。 また「デル戦」の前身であり、大陸書房の倒産とともに幻の作品となっていた「王女グリンダ」も2000年8月に同じくC☆NOVELSファンタジアから発売されています。 最後に忠告です。 この小説を電車の中で読むのはやめた方がいいです。 もしもそのように読む場合には、口元をおさえて読まないと後悔することになります。 まわりの人たちはさぞ冷たい視線で、思わず吹き出してしまった貴方を見つめることでしょう。 登場人物たちの掛け合いは時に極めて愉快な漫才と化してしまうのです。 美しくも愉快な異世界を探検したい、という方はぜひとも「デルフィニア戦記」の世界を旅してみてください。 貴方が訪れるのを「素敵な駄熊」や「狸寝入りの虎」が待っています(少しネタバレ)
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