ななつのこ 魔法飛行       加納朋子・著

東京創元社、創元推理文庫

「ななつのこ」で第3回鮎川哲也賞を受賞


←創元推理文庫版
カバーイラスト:菊池健、カバーデザイン:柳川貴代




皆さまは「謎」という代物とどのような付き合いをされているでしょうか?
古来より人間は様々な「謎」に挑み、それを解明することで進歩を繰り返してきた生物です。
どうして星や太陽は空を動いているのか、どのようにしたら鳥のように空を飛べるようになるかなどといったように。
でも「謎」はそのようなものばかりではありません。
日常のふとした瞬間の中にも「謎」はいくらでも隠されているのです。
そして今回紹介する作品はそんな日常の中に埋もれている何でもないような、それでいて気になる「謎」を題材としている、そんな推理小説です。
題名は「ななつのこ」、そしてその続編である「魔法飛行」
作者は加納朋子さんという方で、「ななつのこ」で第3回鮎川哲也賞を受賞しデビューし、その後も良質のミステリィ小説を発表し続けられている方です。

では早速、第10回となる作品紹介に移らせていただきます。

「ななつのこ」「魔法飛行」はどちらとも短編数編があって、各短編が繋がりを持って構成されている連作短編小説です。
物語は「私」こと入江駒子という人物の視点によって描かれていて、世界の中で駒子は日常の生活を大好きな本や大事な友人とともにゆっくりと、かつ伸びやかに日々を過ごしています。
そうした日常の中で駒子は本屋で「ななつのこ」という1冊の本を見かけ、一目惚れして即座に購入します。
そして駒子はその勢いのままにこの本の作者である「佐伯綾乃」にファンレターを出すのです。
そこからこの物語は動き出します。
駒子はファンレターの中につい最近に彼女が遭遇した日常の中に埋没しかねない「謎」が書いて寄越しているのですが、それを「佐伯綾乃」は手紙の返事で見事に「謎」を解決する、そういった手紙の遣り取りが6度続きます。
そして7つ目の短編「ななつのこ」では駒子はとうとう・・・(以下ネタばれのため省略)

また「魔法飛行」も同じように基本的には駒子からの「謎」を綴った手紙とその「謎」を解決する返事から成るのですが、それに正体不明の人間から送られる手紙、というものが加わって、よりミステリィ色の強い物語として形作られています。

以上簡潔に両作を説明させていただきましたが、次にこの二つの作品の魅力について自分なりに思うところを述べさせてもらいます。
この両作品を語る上で私が何よりも強調したいことが一つあります。
それはこの二つの物語がとても「優しい」作品であることです。
謎を解くということは決してこころよいものではなく、時には人の痛みに触れたり人の隠された痛みを引き摺りだす、ということもあります。
そしてこの作品にもそのような場面は見られます。
しかしそのような場面を演出しても「優しさ」が作品の根底にあるからでしょう、読後感はとても爽やかなのです。
況してやその中のとりわけ優しい物語、特に「ななつのこ」や「魔法飛行」、「ハロー、エンデバー」などを読んでいる時にはもう優しさが身に沁みるほどに私には感じられてしまいます。
こういった本を読んで感動し、この新たな出会いに感謝している自分を見ると「やっぱり自分は本が好きなんだよなぁ」と思ってしまう、この両作品はそんな作品です。

「ななつのこ」「魔法飛行」は最初、東京創元社よりハードカバーで発売されています。
また一昨年、去年と立て続けに文庫化されていて、こちらは創元推理文庫から出ています。
私としては文庫版の菊池健さんの描くカバーイラストが好きなので、購入される場合は文庫版の方を断然お薦めします(勿論値段的にも文庫の方がお薦めになりますが)
またこのシリーズ第3弾の「スペース」というのも既に発表されています。
こちらは当初「週刊アスキー」にて連載されていたもので、またオンライン上で作家が作品を有料で発表しているe-NOVELSにおいてもこちらを読むことが出来ます(その場合360円必要ですが)
私はこちらの方はきちんと読んだわけではないのでどうとも言えませんが,十分に読む価値のある作品であると期待しています(実はついさっき購入してきました〜♪)

これらの作品が好きになるのにミステリィが好きであるかどうかということは全然関係ありません。
私としては物語が好きである方全てにこの作品をお薦めしたいくらいです。
「ハロー、エンデバー。こちらコマコ。私の声が届いていますか?こちらコマコ。聞こえていますか?
 (中略)
 私は見えないマイクに向かって、繰り返し、繰り返し、ささやき続けるのだ。
 ハロー、ハロー、ハロー、ハロー……。
 ハロー、エンデバー!」
この文は「魔法飛行」のラストの短編「ハロー、エンデバー」の最後を飾る文です。
これは読んだことのない方にはこの呼び掛けが何の意味を持っているかは分かりません(当然ですね)
でも私としてはこの呼び掛けを筆頭とした、両作品の優しさに溢れた文章を多くの人に知ってもらいたいし、読後に訪れるとても優しい気持ちをたくさんの方と共有したい、そう思っています。
皆さまもどうです、一緒に優しい気持ちになってみませんか?

(2001.02.03)





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