後宮小説       酒見賢一・著

新潮社(ハードカバー・文庫)

第1回ファンタジーノベル大賞大賞受賞作


←ハードカバー版(帯付き)
装幀:安野光雅、帯画像:(c)スタジオぴえろ・KTV



第2回は一味違うファンタジィ小説を紹介したいと思います。
作品の名は「後宮小説」、作者は酒見賢一です。
一般のファンタジィ読者の方には馴染みの薄い作者名であり作品名であるとは思いますが、 昨今のファンタジィ小説の中でも格段に優れた作品であり、「名作」と呼ぶに相応しい作品だと私自身では思っている作品です。

それでは紹介に移らせていただきます。

「後宮小説」は新潮社が主宰するファンタジーノベル大賞の第1回大賞受賞作です。
舞台になるのは中国をモデルにした架空の世界。
そこに存在する「素乾」という王朝を舞台に、銀河と言う風変わりな性格の主人公が様々な活躍を見せるこの物語には 魔法やドラゴンといった不思議の産物は全く出てきません。
つまりこの作品は一般的にファンタジィを構成する際に不可欠とされるものとは無関係なのです。

次に話の内容を少々ネタバレしない程度に・・・。
物語の主人公である銀河は話の最初では田舎に住む一介の少女でしかありません。
それが何の因果か、都に皇后および宮女の候補として赴くことになり、さまざまな出会いをします。
そしてなぜか皇后となってしまった銀河は身に迫る運命の奔流に大して気負いもせずに向かっていき乗り越えてしまう、 というのが物語のきわめて大雑把な内容です。
関係ありませんが物語は「腹上死であった、と記載されている」という書き出しから始まります(笑)
また、物語中には仙人に代表される中国的なファンタジィの構成要素も一切登場しないことをここでお知らせしておきます(しつこいようですが)。

では続けて「後宮小説」の物語の魅力について語りたいと思います。
この小説の魅力とは・・・何と言ったらよいでしょうか・・・。
とりあえずこの小説のすごいところは一つのものに纏まっていない、という点に尽きると私は思います。
そしてそうでありながらも、そのことが物語の魅力を一つも損なわせていない、という点もまたこの作品のすごいところであり、 魅力的なところです。
それどころか混在する要素が物語の魅力を余計に引き出しているとさえ言えるでしょう。
表現を他人から借りてしまいますが、井上ひさし氏は「シンデレラと三国志と金瓶梅とラスト・エンペラー」の魅力を併せ持つ作品であると 評しています。
私もまさしくその通りだと思っています。
それだけの要素を持ちながらも各々の要素が食い合うこともなく、その全てが見事にひとつの物語の中に融合し得ているのは本当に「驚異」の一言に尽きます。
第1回日本ファンタジーノベル大賞の選考委員であった高橋源一郎氏が「作品の出現自体が一種のファンタジーであった」と言ったのもあながち大袈裟ではないのです。

しかしこの小説は前にも断ったとおり、一般にファンタジィを構成する際に必要と思われているものを何一つ備えていません。
そのため人によってはそのことをもって、「この話はファンタジィではない」と言う方もいるかもしれません。
ですが私自身は、ファンタジィを主に「不思議を扱うもの」ではあるが、それ以上のところで「原則的には何でもありの自由なもの」と捉えていますので、 私にとってはこの話も問題なしに「ファンタジィ」の小説になります。
もともとファンタジィとは現実に縛られない自由な発想から始まったのですから、それを下手な概念で縛るのも変な感じがしますし。
ちなみにですが、作者である酒見さん自身も「自由奔放な想像力を駆使しているかぎり、ファンタジーとして受け容れられると思った」と、 ファンタジィに垣根を設けない姿勢でこの作品を書き、大賞に応募したことを述べています。
そういった意味でもこの作品は日本ファンタジーノベル大賞の第1回大賞受賞作に相応しい作品であると思われます。

「後宮小説」は新潮社よりハードカバーおよび文庫で発売されています。
1冊で完結する作品なので、続編等はありません。
またアニメ化もされていて「雲のように風のように」という作品名で昔テレビ放送されていました(ビデオでも出ています)。
こちらも内容を子供向けにしている点がいくらかあったりで原作との相違はありますが、なかなかの作品です。

以上作品の魅力を上手く説明できたとは到底思えませんが、もしこの文章を読んで「後宮小説」という作品に興味を持たれた方が いらっしゃいましたら、最寄りの図書館から本を借りて読んでみて下さい。
この奇抜なホラ話に夢中になることは請け負いますので(ただし責任は持ちません・笑)。

初稿発表日 不明
2000.12.27 改訂





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